INTRODUCTION / STORY作品について / ストーリー
作品について
「こんなやつがかつてほとんど世界を支配しそうになったのです!/諸国民がやつを屈服させ、やつの主となりました。それでも/ここで勝利を喜ぶのはまだ早すぎます。/やつが這い出てきた母胎は、まだ生む力を失っていないのですから」 ~エピローグより~
1933年ブレヒトはナチスに追われ、15年に及ぶ亡命の旅に出ます。アメリカへ渡ったブレヒトは英雄として神格化されるギャングたちの映画に興味を持ち、ギャング団の資料を集めたと言われています。その中で、禁酒法時代にシカゴの高級ホテルを住まいとし、密造酒製造販売、売春業、賭博業を組織化し、勢力を拡大していったアル・カポネにヒトラーとの共通点を見つけ、41年に戯曲の執筆に着手します。衝撃をあたえた本作の初演は1958年にドイツ・ヴュルテンブルグ州立劇場にて上演。1956年にブレヒトがこの世を去った後でした。
日本では、1969年に田中邦衛主演、劇団俳優座による『ギャング・アルトゥロ・ウイ~おさえればとまるアルトゥロ・ウイの栄達』のほか、2005年に新国立劇場が招聘したマルティン・ヴトケ主演、ベルリナー・アンサンブルによる公演があり、大きな話題を呼びました。
この作品は、ヒトラー率いるナチスがあらゆる手段を使い独裁者として上り詰めていく過程を、シカゴのギャングの世界に置き換えて描いたという大胆な作品。作品の中にはヒトラー「興隆」の過程が劇中にちりばめられていて、彼の君臨を許した当時の社会環境が冷ややかな姿勢で描かれています。第一次世界大戦後、敗戦国となり莫大な賠償金を課され、未曾有のインフレに苦しめられたドイツ。そんな荒廃した生活の中で、ヒトラーとナチスは民衆の不満に応え、民衆からの絶大な支持を勝ち取ることによって権力を握っていきました。
ナチス支配の終焉からおよそ70年経った現代、日本のみならず世界中で露になっている格差の問題は、まだ終息をみないコロナ禍においてますます拡大し、社会には不安が蔓延しています。この世の中の不満を救い取り、新たな独裁者が現れたとしたら・・・。今も昔も、独裁者を誕生させるのはそのような「空気」を生み出す民衆の心なのではないかというブレヒトの警鐘が現代にも響いてくるようです。
ストーリー
シカゴギャング団のボス、アルトゥロ・ウイは、政治家ドッグズバローと野菜トラストとの不正取引に関する情報をつかんだ。それにつけこみ強請るウイ。それをきっかけに勢力を拡大し、次第に人々が恐れる存在へとのし上がります。
見る見るうちに勢いを増していくウイを、はたして抑えることができるのだろうか・・・?